共同利用ガイドブック改版に基づくパーソナルデータ利活用サービス連携の検討プロセス(後編)

本稿では、パーソナルデータの利活用としてどのようなデータの連携がテーマとして多いのかをご紹介したうえで、KPIの持続的な改善につながっている熊谷市(埼玉県)、AI活用を行っている会津若松市(福島県)の2つを紹介します。

パーソナルデータ連携の事例分析は、前半で紹介したデータフローマトリクスを用いて実施します。具体的には、「①データ共有元サービスAから②データαを③データ共有先サービスBに連携し、④データ連携サービスβを創出する」という4つの要素をもとに、事例の検討を行います。

DSA調べによると、デジタル田園都市国家構想の交付金でパーソナルデータ連携を行っている自治体のうち、サービスのテーマは以下の通りでした。

パーソナルデータ連携を行うサービスのテーマ※

  1. 観光/地域経済活性化 13件
  2. 健康/医療 13件
  3. 防災/防犯 5件
  4. 行政 3件
  5. モビリティ 3件

※デジタル庁からの情報提供により、デジタル田園都市国家構想Type2, 3, Vの採択案件をもとにDSAにて集計

 

パーソナルデータ連携における4つの要素

健康・医療分野では、調査対象の多くに取り組みが見られました。多くのサービスが患者の診療履歴や服薬データ、運動データなどを医療機関に共有し、診療の効率化・時間短縮や個別化されたヘルスケアに役立てるケースが目立ちます。例えば、患者の生活習慣データを医師に提供して一人ひとりに合わせた健康指導を行うサービスなどです。食材の購買履歴からサービス連携により健康アドバイスを行う例もみられます。

健康医療分野でのデータ連携イメージ

表:健康/医療における代表的なデータ連携の例

①データ共有元
サービス
②流通データ ③データ共有先
サービス
④データ連携
サービス
ヘルスケアアプリ・
ウェアラブルデバイス
歩数・心拍など運動データ、健診結果 医療機関・保健指導サービス 業務効率化、生活習慣データに基づく健康指導
地域通貨・ポイント 購買履歴 ヘルスケアアプリ 購買データに基づく健康アドバイス

健康分野では上記のように個人の医療・健康データを起点とする連携が多く、医療現場での情報共有や患者へのフィードバックサービスに直結しています。結果として「診療プロセスの短縮」や「パーソナライズド医療」といった価値が生み出されているのが特徴です。

 

防災や防犯の分野においては、さまざまなサービス間でのデータ連携が進められています。例えば、介護支援アプリが収集した安否情報を防災アプリと共有することで、住民の安否確認や避難行動のサポートがより円滑に行おうとするものがあります。また、避難者の情報を共有することで、情報共有の効率化や避難所運営の改善につながり、緊急時の迅速な対応や個別の支援が可能となっています。

防犯・防災分野でのデータ連携イメージ

表:防災/防犯における代表的なデータ連携の例

①データ共有元
サービス
②流通データ ③データ共有先
サービス
④データ連携
サービス
介護支援アプリ 安否情報 防災アプリ 情報共有効率化、
避難行動支援
マイナポータルなど 避難者情報 避難所受付サービス 避難所管理の効率化

 

行政分野では、行政手続や公共サービスに関連するデータ連携が進められています。典型例は、自治体の基幹システムが持つ住民情報をオンラインの申請サービスと連携させるケースです。例えば、市の世帯情報をオンライン申請システムに共有し、ユーザの入力項目を自動補完することで手続の入力負担を軽減するサービスがあります。

行政分野でのデータ連携イメージ

表:行政分野における代表的なデータ連携の例

①データ共有元
サービス
②流通データ ③データ共有先
サービス
④データ連携
サービス
市基幹システム/オンライン行政サービスなど 住民情報
(世帯など)
ポータルアプリなど 個別通知・手続き削減

 

モビリティ分野では、交通サービスの運行データや予約情報を連携することで移動の効率化を図る事例が挙がっています。例えば、自動運転バスやオンデマンド交通の運行情報・乗車履歴データを統合的な運行管理システムに共有し、ダイヤ編成の最適化や運行状況の可視化に繋げる取り組みがあります。さらに、他分野との連携例として、ヘルスケアサービスによる健康状態のデータとバスの利用履歴の収集により、災害時の避難計画への反映に役立てようとする試みも見られます。

モビリティ分野でのデータ連携イメージ

表:モビリティにおける代表的なデータ連携の例

①データ共有元
サービス
②流通データ ③データ共有先
サービス
④データ連携
サービス
オンデマンドバス
サービス
運行情報
/利用履歴
運行管理システム ダイヤ編成最適化

 

本稿では上位に挙がった観光/地域経済活性化について、KPIを持続的に改善させている事例と、AI活用まで進めている事例を紹介します。

熊谷市 – 共通IDによるシームレス連携と行政へのデータ活用フィードバック

埼玉県熊谷市は、スマートシティ戦略の中で「データ連携基盤」を整備し、市民向けサービスと行政データ活用を両立させた好例です。熊谷市の特徴は、LINEを活用した共通ID基盤と、地域経済に直結するサービス連携です。

熊谷市は公式LINEアカウント上で提供する都市ポータルアプリ「クマぶら」をハブに、以下のようなサービス群を統合しました。

  • 地域電子マネー「クマPAY(熊谷市内で使えるデジタル地域通貨)
  • コミュニティポイント「クマポ」(地域活動や消費に応じて貯まるポイント)
  • コミュニティバス回数券のデジタル化(バス利用券アプリ)

データ連携イメージ(熊谷市 産学官デジタル研究会『デジくまネクサス』データ連携基盤を活用した取組事例等の紹介)

 

これらをすべてLINE IDで連携し、「クマぶら」に一度登録すれば別々のアプリをインストールする必要なく利用できるようにしました。まさに共通ID連携の利点を最大限に生かし、キャッシュレス決済・ポイント・モビリティといった日常生活サービスをワンストップ化したのです。住民にとっては、買い物も移動も娯楽イベントも一つのプラットフォームで事足りる利便性を享受できます。

熊谷市はクマぶらの利用ユーザ数をアウトプット指標としており、毎年目標を上回る実績が出ています。現時点でユーザ数は6万人を超えています。特に令和5年度はスマートシティ宣言が行われ、「暑さ対策スマートパッケージ」の提供など地域通貨を含めたスマートシティアプリとしての拡充が行われ、大幅にユーザ数が増加しました。

ポータルアプリユーザ数の推移(熊谷スマートシティ実行計画をもとに作成)

 

熊谷市は、これらサービスから得られるデータをパーソナルデータストア(PDS)に蓄積し、行政施策のPDCAに活用しています。同市のプライバシーポリシーに基づき、利用者から同意を得たデータのみを収集し、BIツール「Tableau」で可視化・分析することで、施策改善に役立てています。例えば、市内回遊イベントの参加履歴データを分析して観光施策の効果測定に使う、クーポン利用データから商店街振興策を検討するといった具合です。実際、熊谷市はこうしたデータ活用によりイベント施策を改善し、市公式LINE登録者が1年で7倍(0.5万人→3.5万人)に増加する成果を上げました。同じくスタンプラリー等の参加者も5倍に伸び、「データに基づく施策」が住民の参加意欲を喚起しつつあることが示されています。

 

熊谷市のケースが「定着済み」と評価できるのは、自治体施策と市民サービスがデータで好循環している点です。市民はサービス横断の利便性と経済的メリット(ポイント還元等)を享受し、その利用データが行政にフィードバックされてさらにサービス改善が行われる。このサイクルがうまく回り始めており、持続可能性が見えてきています。

もう一つ特筆すべきは、熊谷市が国際標準の都市OS「FIWARE」を採用し、オープンデータ基盤とも連動させている点です。非個人のオープンデータ(例えば気象センサー)とPDS上の個人データを組み合わせ、新たなサービス創出も視野に入れています。このように、技術と運用の両面で洗練を重ねていることが、定着成功の要因と言えます。

データ連携の概要

①データ共有元
サービス
②流通データ ③データ共有先
サービス
④データ連携
サービス
タッチポイント/
地域通貨/バスアプリ
購買属性情報、購買データなど データ分析/
クーポン配信
ポイント連携/
レコメンド配信/
サービス・政策の改善

 

熊谷市事例におけるデータ収集・分析によるサービス改善サイクル

会津若松市 – 地域ウォレット「会津財布」によるデータ循環と生成AIの活用

福島県会津若松市は、スマートシティAiCTプロジェクトの一環で、「会津財布」と呼ばれるスマートフォン地域ウォレットアプリを展開しています。会津財布は地域通貨機能と各種生活サービスを一つにまとめたアプリで、住民・観光客がキャッシュレス決済や地域情報サービスを日常的に利用できるプラットフォームです。

会津若松市は、みずほ銀行と協働しデジタル地域通貨「会津コイン」を2023年3月に導入。会津財布アプリ内で発行・利用でき、加盟店数は既に500店舗以上、ユーザ数は13,000人を超えています。地域通貨導入により、購買データが地域内に蓄積され、現金では見えなかった消費行動がデータとして捉えられるようになりました。また、J-Coin Pay等の既存決済サービスとも連携し、観光客も利用可能なハイブリッド決済基盤を整えています。

集まった購買データや利用者情報は、市の都市OS(AiCT)上のパーソナルデータ連携基盤にオープンAPI経由で集約されています。個々の決済事業者やサービスからデータを取り出し、市民IDと紐づけて統合する仕組みをTISなどの協力企業が構築しました。これにより、「誰が・いつ・何にお金を使ったか」というデータが市のプラットフォームに蓄積されます。

 

そのビッグデータを活用し、会津財布では生成AI(Generative AI)による高度な分析・サービス最適化を図っています。2023年にはAWSの生成AI基盤(Amazon Bedrock等)を用いて、アプリ利用者2,500人規模のアンケート結果を自動分析し、回答内容から10種類のペルソナにユーザを分類、属性毎に最適なクーポンを配信する実験を行いました。AI活用により従来手作業では250時間かかった分析作業を約109時間に短縮し、担当者が本来業務に注力できるよう改善されています。

 

データ連携の概要

①データ共有元
サービス
②流通データ ③データ共有先
サービス
④データ連携
サービス
地域ウォレット・地域情報サービス アンケートデータ(趣味嗜好など) クーポン配信 配信クーポンのカスタマイズ

 


R6デジ田交付金デジタル実装タイプTYPE3申請概要

 


生成AI×地域通貨活用で、地域での生活をより便利に楽しくする:スマートフォンお財布アプリ「会津財布」

まとめ

熊谷市と会津若松市の事例から、自治体がパーソナルデータや地域通貨データを活用し、住民サービスと行政施策のPDCAサイクルを持続的にするうえでのポイントを紹介しました。熊谷市では地域通貨・地域ポイントとの連携がユーザ増加の起爆剤となっており、利便性や経済的メリットの向上が住民の積極的な参加を促しています。地元企業や加盟店の協力のもと、データ分析から施策の改善のサイクルを実施している点も重要な要素と考えます。また、会津若松市の事例では、生成AIといった先進技術の導入により、データ分析やサービス最適化の効率化事例を紹介しました。地域全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上では、データの連携やAIの活用が今後ますます重要になると考えられます。

 

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